2018年5月21日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・200

手掛けた構造物が完成した時、嬉しさが込み上げてくる
 ◇時代の変化に合わせて育て方も変えなくては◇

 バブル期並みに活況を呈す建設業界だが、それはここ数年の話。現場は忙しいが、「ただでさえ少ない若手の人材育成に今から本気になって取り組まないと手遅れになる」。ゼネコンの現場代理人として日々奮闘する橋本穣治さん(仮名)はそう話す。

 今でこそ、ダイバーシティー(人材の多様性)や、手厚い研修など働き方に関する新たな取り組みが次々に出てくる。ひとたび「不遇の時代」と呼ばれたかつてのような状況が訪れれば、人材育成どころの話ではなくなる。その繰り返しでは建設業は時代遅れの産業になってしまう。

 橋本さんが建設業を志すきっかけは、中学生時代にさかのぼる。課外授業で商業施設の建設現場を見学した際、その壮大さに圧倒され、感動を覚えた。「自分もこんな大きなものを造ってみたい」と強く感じた。高校卒業後、建築学科のある大学に進学し、さまざまな建設工事に携わることができるゼネコンを就職先に選んだ。

 駆け出しの頃の忘れられないエピソードがある。入社1年目に配属されたトンネルの建設現場でのことだ。所長に「あれをやってこい」と指示されても、その内容がまったく分からないということが何度もあった。所長に聞き返せば、現場から外されるのではないかという恐怖心もあった。

 当時は、親切な研修などはなく、先輩の背中を見て学べというのが一般的。現場の上下関係も厳しかった。毎日苦痛だったが、自分の手掛けた構造物が完成したのを目にした時、うれしさがこみ上げてきて、思わず涙した。「この出来事がそれからの仕事のモチベーションとなった」。

 橋本さんは今年、入社22年目を迎えた。今でこそ、現場でのことは把握しているつもりだが、人材育成を巡る悩みは尽きない。厳しく指導すれば、今の若者はすぐにやめてしまう。「葛藤の毎日だ」という。

 それでも「諦めていては、人は育たない」。現在担当している土木工事の現場には、若手の男性社員が2人いる。「自分にできることは微力だが、時代の変化に合わせて人の育て方も変えなくては」。

 建設業の先行きを誰よりも案じている。「建設業の将来のために人材育成を原点に返って見直す時期に来ている」。それが今だと感じている。

 人材育成に正解はないかもしれないが、ものづくりの醍醐味(だいごみ)を味わってもらうことで、仕事への意欲がわいてくるはずだ。自分の成長を感じ、できることの幅が広がれば、やりがいと喜びにつながる。「それが繰り返されれば、若者はさらに次のステップへ進める」と力を込める。

 そのためには、現場でコミュニケーションを積極的にとること。さらに、これまで培ってきた技術や知見を体系化し、知識面でのフォローを行っていくことも欠かせない。土木技術者としてのDNAを次の世代に伝えることが、自分の責務だと肝に銘じている。

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