2018年10月10日水曜日

【回転窓】「馬上」で練る考え

中国の故事にならうと、良い考えが浮かびやすい場所は〈馬上、枕(ちん)上、厠(し)上〉。北宋の学者・欧陽脩が文章を練るのに最適な場に挙げた“三上”である▼このうち馬上を現代で言えば「さしずめ通勤の電車となるかも」と自著に書いているのは評論家の外山滋比古氏。確かに電車の中で考えがまとまったり、思わぬひらめきが得られたりした経験を持つ方は少なくないだろう▼18年ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった本庶佑京都大学特別教授にも同じような経験があると、通信社の配信記事(1日時事)で読んだ。1970年代に「クラススイッチ」と呼ばれる〈体内でさまざまな種類の抗体を作り出す作用〉の基本原理が解明できたアイデアは、帰宅する電車の中で浮かんだという▼本庶氏は免疫抑制分子の「PD-1」を発見し、がん治療に新しい道を開いた。今回の授賞はこの偉大な功績に対するものだが、クラススイッチに関わる研究業績も国際的には高い評価を受けている▼素晴らしい考えが浮かんでも実現できるかどうかは分からない。やはり普段から諦めずに、粘り強く取り組んでこその成功であろう。

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