埼玉県日高市にある太平洋セメントの埼玉工場は、国内最大の需要地である東京に近接する生産拠点というだけでなく、同市で排出される年間1・5万トンの都市ごみを全量処理する役割も担う。
稼働を休止していたロータリーキルン(焼成炉)をごみ資源化キルンに転用した、世界初の都市ごみ資源化技術「AKシステム」を導入。2002年11月の稼働開始以来、地域の暮らしを支える重要な役割を担い続けている。
AKシステムは、1450度以上という高温を保ちながら連続運転するキルンに、破砕・発酵・選別した都市ごみを投入して焼成する。破砕・発酵工程で発生するガスは、稼働中のセメントキルンで焼成用空気として利用。焼却灰もセメント原料として使うことで、二次廃棄物を発生させない完全リサイクルシステムを構築している。
市から受け入れているのは、家庭から排出されたごみや事業系一般ごみ。年間受入量は1万5000トンにも達する。同工場の指揮を執る前川修一工場長は「都市ごみの焼成で得られたエネルギーをセメント焼成に使用するので、セメント焼成用の石灰使用量が減少し、二酸化炭素(CO2)削減につながっている」と同システムの特徴を説明。日高市にとっても「ごみ収集車で回収したごみをそのまま工場に持ち込めるため、清掃工場が不要となり、経済的に大きなメリットが生まれる」と話す。
同システムが稼働を開始してから16年余り。清掃工場が不要になるという大きなメリットを地域に提供しつつ、同工場はセメント生産とごみ処理という役割を担い続けている。
工場では、ごみ処理以外にも事業活動に伴う環境負荷の低減策として、石炭による発電に比べCO2の排出量が大幅に抑えられる木質チップ使用したバイオマス発電所を工場敷地内に整備。電力を生産設備の稼働に活用している。発電能力は4万9500キロワット。工場内の全電力をまかない、残りを売電し収益確保につなげている。
「セメント産業はCO2の排出量が少ないとはいえない。だが、自助努力によって最大限削減できるように努めている」と前川工場長。セメントメーカーにとって最も重要な生産工程を担いながら、地域に密着し暮らしを支えるという役割も果たし続けている。
このほか、工場では操業に欠かせない作業員の安全確保にも力を注ぐ。同社にとって初となるVR(仮想現実)を活用した安全教育を10月から導入。工場内で起こりうる転落や感電を疑似体験できるようにした。前川工場長は「従業員の安全確保は何より重要だ。若手をはじめ中堅やベテランも含め、工場の運営に関わるすべての人に危険を疑似体験してもらうことで、日常業務に役立ててもらいたい」と導入の狙いを話す。
0 comments :
コメントを投稿