2017年7月の九州北部豪雨により被災した福岡県朝倉市の筑後川水系赤谷川流域で、国土交通省九州地方整備局が進めていた災害復旧事業が完了する。大量の土砂や流木による中山間地の被災は前例がなく「河川事業と砂防事業の連携」という方針の下、新たな技術を導入し全国初の施設が整備された。地域に寄り添い、事業を引っ張ってきた同局の筑後川河川事務所九州北部豪雨復興出張所はその役割を終え、31日に閉所する。
朝倉市では17年7月5日から6日にかけて線状降水帯により、9時間雨量で日本最高となる774ミリの短時間集中型の豪雨が発生。赤谷川流域の約1100カ所で斜面が崩落し、約290万立方メートルの土砂と約5万本の流木が一気に谷を下り集落を飲み込んだ。
県知事から要請を受け国交省は応急復旧工事で河川法に基づく権限代行を全国で初めて適用。その後、本復旧についても要請があり、権限代行による河川の改良復旧事業と特定緊急砂防事業の同時実施が決まった。
災害復旧の方針は「河川事業と砂防事業の連携」。砂防事業は通常、100年に1回の確率で発生が見込まれる災害への対応を整備目標に設定するが、今回は河川事業に合わせて50年に1回を整備目標とした。これに基づき土砂などをできるだけ下流に流さず、流れても安全に流下できるよう砂防堰堤の配置を計画した。
河川事業の対象区間は赤谷川と支川である大山川、乙石川の総延長約14キロ。河道を拡幅し掘り下げて流下能力を4~6倍に引き上げ、蛇行していた流れを真っすぐに近づけた。杷木松末地区の左岸側に高さ2・7メートルの鋼管17本を突き立てた流木捕捉施設を九州の河川で初めて設置。上流の砂防堰堤で流木を取りこぼしても受け止められるようにした。
砂防事業では透過型と不透過型の堰堤を30基整備し、土砂崩壊を抑える緊急対策を1カ所で行った。堤体のコンクリートの一部を破砕すれば透過型に改変できる不透過型堰堤を全国で初めて整備。土砂量が多い場所に設置する大暗渠堰堤も九州で初めて整備した。
用地取得で遠隔による境界立会を全国で初めて実施した。被災箇所は危険で立ち入りが難しいため、航空写真や現地から送ってくる動画を活用して関係者の3分の1に当たる約100人が用地の境界を確認した。
事業着手から約5年4カ月。川邉英明九州北部豪雨復興センター長(筑後川河川事務所技術副所長併任)は出張所として「地域住民と話し、復旧が進む様子を見てもらうことに一貫して取り組んできた」と話す。約150回に及ぶ地元説明会を開催。常に「国交省が顔」という姿勢で住民と向き合った。川邉氏は「被災し、つらい思いの中、われわれの意見や話を聞いてもらい、仕事ができた」と感謝する。
渡邉正弘出張所長は事業完了を安堵(あんど)しつつ地域の将来を見据える。「治水安全度は上げられた。農地や宅地もできあがると聞く。今後は地域の方々の復興に向けた頑張りを少しでも手助けしたい」。
改良復旧が完成した赤谷川下流(1月撮影、九州北部豪雨復興出張所提供)
川邉センター長〈右〉と渡邉所長
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