2018年5月1日火曜日

【ユニークで楽しいよ】土木学会、「土木偉人かるた」、売れ行き好調

 遊びながら土木を楽しく学んでほしい-。そんな意図で土木学会(大石久和会長)が制作した「土木偉人かるた」の売れ行きが好調だ。

 国の礎となるインフラの整備で顕著な業績を残した国内外の土木技術者や為政者48人のイラストを絵札に使った国内初のかるたは、学校や企業の関係者からも「アイデアがユニークでおもしろい」と評判だ。アイデアの源泉はどこにあったのか。

 ◇土木偉人かるた、発売1カ月で460セット◇

 土木偉人かるたは、約2年をかけて同学会土木広報センターと学会誌編集委員会が制作した。中心となったのは土木広報センター土木リテラシー促進グループの緒方英樹グループ長(全国建設研修センター事務局総務部特任専門役)と鈴木三馨さん(大成建設技術センター社会基盤技術研究部材工研究室材料設計チーム副主任研究員)の2人だ。

 発端は16年3月、鈴木さんが母校の横浜国立大学の学生と共に訪れた台湾南部の「烏山頭ダム」。ダムのほとりには、大正~昭和初期にダムの建設を指揮した土木技術者・八田與一の偉業を称える記念室がある。室内を回りながら、鈴木さんは土木の偉人を子どもに紹介したいと考えるようになった。映像や絵本などの案もあったが、子どもと楽しんだかるたを思い出し、「この手もあるな」とひらめいた。

 鈴木さんは当時、土木学会誌で「子や孫と楽しむ土木コンテンツ」と題する連載を手掛け、「土木の絵本」シリーズを執筆した緒方氏にインタビューを行っていたこともあり、「土木の偉人をかるたにしたらどうか」と相談した。緒方さんはすぐに賛同し、学会の承認を経て、かるたに載せる土木偉人の選定に入った。

 絵札に載せる候補者は当初、国内だけで100人以上が挙がった。緒方氏は「日本に限らず海外の人も入れようとなり、その数は広がった」と当時の苦労を振り返る。最終的に「親しみがあり、橋梁、水理、土、交通・計画、コンクリート、施工の分野と地域性のバランスを考慮して取り上げよう」と思い切った基準で国内36人、海外12人の計48人を選んだ。

かるたづくりに携わった鈴木さん㊧と緒方グループ長
「日本からはやはり治水で業績を残した人物が多くなった。海外は明治期に西洋の土木技術を伝えたお雇い外国人が6人、残りは今でも土木工学で使われる公式をつくったカール・テルツァーギなどを選んだ」(緒方氏)

 鈴木さんは絵札を描くイラストレーターの人選で頭を悩ませた。「人物と構造物の両方をうまく描けるイラストレーターは意外に少ない。東京ビッグサイトで毎年開催されるコンテンツ展に足を運び、人気のイラストレーター・広野りおさんをようやく見付けて依頼した」と明かす。絵札に使うイラストの構図を決めるのにも時間を掛けた。故人の遺族や関係の深い企業に足を運び何度も相談した。

 絵札の裏面に土木偉人のプロフィルと、簡単なエピソードを「豆知識」として載せたのも鈴木さんのアイデア。人気のダムカードの裏面に記載されているダムデータを参考にした。「豆知識はわずか100文字前後での紹介。その人の横顔が見えるようにまとめるのは大変だった」と話す。

 例えば、土木学会初代会長の古市公威にあやかって三島由紀夫の本名(平岡公威)が名付けられたこと、明治期に近代的な土木建築会社を設立した大倉喜八郎の昼食は決まって好物のうなぎ、東京市長として帝都復興計画をつくった後藤新平はボーイスカウト日本連盟初代総長だったことなど、誰もが興味を持つような事項を盛り込んだという。

 ◇遊びながら土木を楽しく学ぼう!!◇

 緒方氏も「広く浅く紹介すればよい。その方が興味を持った人たちが深掘りできる」とアドバイス。かるた制作と同時進行で17年1月から土木学会誌で「覚えよう!土木偉人」と題する連載を始め、かるたに取り上げた偉人を1カ月に1人ずつ紹介。データをより詳しく掲載し、「豆知識」の内容を補足する機能を持たせた。

 3月14日の発売から評判も上々。全国の建設業協会が購入して地元の学校に寄贈したり、博物館や資料館なども購入したりしている。祖父母が「孫のために」と購入することもあるとか。4月20日時点の販売数は460部と異例のヒットとなった。

 緒方氏は売れ行きが好調な理由を「何事も上から教えるという姿勢は駄目。遊ぶことから始め、自ら興味を持ってもらうことが一番だ」と話す。今後は6月に日本大学郡山キャンパスで開く「土木史研究発表会」で紹介し、各地で行われる土木の魅力を伝える市民向けイベント「どぼくカフェ」、9月に北海道大学を会場に開催予定の全国大会でのプレゼンテーションも企画している。

 目指すは第2弾のかるた制作。鈴木さんは「まだまだ紹介したい人がいる」と思いをはせる。

 『土木偉人かるた』とは?

 土木分野に大きな足跡を残した国内外の技術者や為政者48人が登場する。遊び方は読み札に合わせた絵札を取り、その枚数を競う。読み札には偉人の業績を簡潔に記し、絵札は偉人と代表的な功績をイラストで記載している。絵札の裏面には土木偉人の詳細なプロフィルも付いている。

 絵札に登場する偉人は、国に土木事業を広めた奈良時代の行基や平安時代の空海をはじめ、信玄堤など治水事業を行った武田信玄、江戸の街並みをつくった徳川家康、国内外でダム建設など電力事業にかかわった久保田豊、都市工学者の石川栄耀、日本の近代橋梁の礎を築いた田中豊ら。お雇い外国人はJ・デ・レーケやW・K・バルトンを含め6人が登場する。


 定価は1700円(税別)。問い合わせは同学会出版事業課(電話03・3355・3445)へ。

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