2022年8月4日木曜日

業界構造の壁に切り込む/課題噴出で官民が共鳴した動き、持続可能な産業へ検討着手

 技能労働者の処遇改善や建設資材の価格高騰など建設業が抱える課題の噴出を契機として、従来型の業界構造の壁を打ち破ろうとする動きが活発になってきた。国土交通省は建設産業政策の新たな展開を検討する有識者会議を立ち上げた。長年の懸案とされてきた重層下請構造の改善に本腰を入れ、価格変動に柔軟に対応できない民間工事の商慣習にも切り込む。それと呼応するように建設業団体との意見交換でも共鳴したテーマが取り上げられる場面が出てきている。
 □国交省/持続可能な産業へ検討着手、契約方式や重層化の改善焦点□
 国交省は3日、有識者会議「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」の初会合を東京・霞が関の国交省内で開いた=写真。建設業を取り巻く諸課題や環境変化への対応策を議論し、将来的な市場縮小局面にも耐えられる制度や仕組みの具体化を目指す。直近の中央建設業審議会(中建審)総会で国交省が必要性を指摘した受発注者間契約のリスク分担や重層下請構造の改善などに焦点を当て、その実現方策を模索する。=2面に有識者会議の委員一覧
 委員7人は幅広い分野の学識者などで構成。オブザーバーとして厚生労働省も参加する。初会合では国交省が議論のベースとなる論点を提示し非公開の場で意見を交わした。
 冒頭、笹川敬官房審議官(不動産・建設経済局担当)は「持続可能な建設業に向けた取り組みが急務。さらなる施策展開の検討が必要だ。各分野の専門的見地から意見をいただきたい」と呼び掛けた。次回以降、業界内外の関係者ヒアリングも予定。年度内をめどに検討成果の取りまとめを目指す。
 論点の一つが資材高騰を契機とした価格変動への対応だ。6月の中建審総会では民間工事の受発注者双方の関係者から価格転嫁が難しい実態を指摘する声が挙がった。受発注者間で価格変動リスクを適切に分担する方策として、国交省はコストプラスフィー契約などを例示。コストの「見える化」で価格変動に対応しやすい契約の在り方を検討する。想定外のリスクやコスト要因を早期に見通す観点でBIMの活用も取り上げた。
 処遇改善を巡る議論にも重点を置く。労務費を技能者に適切に行き渡らせるため重層下請構造の改善方策を探る。先行事例として複数の都道府県が発注工事で導入する下請次数制限制度を紹介。重層化した下請による労働力の需給調整機能を、別の仕組みで補うことが可能かどうか併せて検討する。緊急避難的な運用に限って労働者派遣を認めている厚労省の「建設業務労働者就業機会確保事業」など現行制度の在り方も検証する。
 技能者の賃金上昇を下支えする仕組みも検討課題に設定した。法律や労働協約として賃金水準を保つ仕組みが定着している欧米の事例を参考に、ダンピング競争にさらされやすい民間工事でも機能を発揮する制度構築を目指す。建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用も視野に入りそうだ。
 □建専連/国交省と3年ぶり意見交換、賃上げへ労務費安定を□
 建設産業専門団体連合会(建専連、岩田正吾会長)は3日、国交省と3年ぶりの定例意見交換会を東京都内で開いた=写真。技能者の賃上げを柱とする処遇改善に向け、業務の繁閑や建設資材価格の変動に関係なく安定した請負金額で受注できる環境整備を要望。建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用した技能者評価など、民間事業者を念頭に発注者の理解が得られるような取り組みの加速を訴えた。
 冒頭あいさつした岩田会長は「若者に来てほしい業界から、若者が入りたい業界を目指す」と宣言。そのため安定した請負金額を確保する環境整備について、「仕事量が減少する前にスピード感を持って取り組みたい」と力を込めた。
 建専連が提案した意見交換のテーマは▽請負競争でのダンピング受注の徹底排除▽公共・民間工事を問わず建設現場へのCCUSの早急な普及▽工期の適正化と週休2日制の推進▽登録基幹技能者の有効活用(CCUSレベル4の実行ある評価)-の四つ。国交省の見解を聞いた。
 建専連など建設業4団体と国交省は、2022年に「おおむね3%の技能者の賃上げを目指す」目標を申し合わせている。建専連は民間工事や市町村工事でダンピング受注が見られる現状を説明し、「仕事量があっても賃上げに踏み切れない」(岩田会長)と指摘した。
 そのため10年連続で引き上げられた公共工事設計労務単価相当の賃金が官民双方の工事で技能者に行き届くよう、国交省に対しフォローアップや発注者への指導と監督を求めた。下請が元請への価格交渉力を高めるため必要な労務費の見える化や標準化にも期待を示した。
 CCUS関連では、技能者の加入促進を後押ししている建設業退職金共済(建退共)制度との連携も話題に上がった。CCUSに就業履歴を登録している技能者の建退共掛け金について、公共工事では予定価格の積算に反映されている。建専連は民間工事での負担の在り方も明確にするよう求めた。
 国交省の増田嗣郎官房審議官(不動産・建設経済局担当)は、建専連の要望や問題提起に対し「大変示唆に富んだ意見をいただいた」と総括。課題解決に強い意欲を見せた。



source https://www.decn.co.jp/?p=145047

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