政府が推進する「質の高い」インフラシステムの輸出戦略が軌道修正を迫られている。コロナ禍で多くの国の財政状況が悪化し、資材価格も世界的に高騰しているためだ。国土交通省は「各国で対外債務を回避する傾向が出てきている」(総合政策局海外プロジェクト推進課)と分析。資材価格高騰に対しては世界中のプロジェクトに大きな影響を及ぼすと見ており、政府間協議で契約変更に応じるよう働き掛けていく考えだ。
各国政府のインフラ投資マインドについて国交省は「事業規模の縮小や要求性能の見直しなど、計画そのものを見直す動きもある」(同)と説明する。背景には鋼材やコンクリートなどの価格が世界的に高騰している状況がある。コロナ禍が世界経済に影を落とす中でロシアによるウクライナ侵攻が発生。原材料の調達や物流が滞っている。
国交省によると建設会社が相手国政府などと結ぶ工事請負契約書には世界標準のひな型があり、物価スライド条項も規定されている。だがひな型は対象品目をリストアップする形式。リスト外品目の価格が上がっても契約変更の対象にならず、受注者の利益を圧迫する。
国交省は資材価格の高騰が世界中のインフラ事業で「そろそろ大きな問題になりそうだ」(同)と予測。工事がストップするなどトラブルが起きた場合は「相手国に対し、契約変更協議に応じるよう政府レベルで働き掛ける」構えだ。
価格競争力に優れる中国など競合国の台頭も、日本のインフラ輸出戦略に軌道修正を迫っている。日本企業は長年高い技術力を前面に打ち出す受注提案に力を入れてきたが、「近年は競合国や建設地の地場ゼネコンの技術も向上し、日本の相対的な優位性が低下している」(同)状況だ。
国交省は6月に決定した「インフラシステム海外展開行動計画2022」で新たな方針を打ち出した。価格競争力以外に活路を見いだす必要があると認識。新たな付加価値としてO&M(維持管理・運営)技術を前面に出し、従来重視してきた建設技術とパッケージにして相手国に提案する。近年の受注実績を踏まえ、空港や鉄道、道路といった交通分野を中心にトップセールスを強化する。
各国の財政状況に配慮した事業手法としてPPPにも着目。日本政府は2017年にバングラデシュPPP庁と覚書を締結し、同国内のPPP案件に日本企業が競争入札を経ず優先交渉権を獲得できる枠組みを構築した。今後の政府間交渉ではこうした事例も踏まえつつ、日本企業がPPP案件に有利に参画できる環境整備に努める。
source https://www.decn.co.jp/?p=144357
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