洋上風力発電事業の事業者選定手続き見直しを議論している国の外部有識者会議が新たな運用指針の案をまとめた。1者による複数区域の総取りを防止するため、新たに落札数制限の導入を明記。事業者評価では「運転開始時期」の項目を創設し、政府の再生可能エネルギー導入目標の達成に貢献する計画を高く評価する。指針は意見募集を経て今夏にも改定する予定。既に事業者公募を開始している「秋田県八峰町および能代市沖」にも適用する。
新たな運用指針は交通政策審議会(交政審、国土交通相の諮問機関)と総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)がそれぞれ設置した有識者会議の合同会合で意見を聞きながら検討。14日に一般からの意見募集を開始した。
政府は2019年4月に施行した再エネ海域利用法に基づき、一般海域で洋上風力を誘致する「促進区域」を指定する。区域ごとに定める公募要領「公募占用指針」に基づいて事業者を募集。選定した事業者は最大30年間海域を占用し洋上風力発電事業を展開できる。
運用指針見直しの案は落札数制限を導入すると明記し、公募占用指針で具体的な内容を定めるとした。国が会議で示した運用案によると、同時に複数区域で事業者を公募する場合に落札数制限を適用する。
1者が落札できる発電施設の出力に上限を設定する。上限は1ギガワット程度になる見通しだ。複数の区域で同じ事業者が最高点を得た場合、この事業者には次点の事業者との点差が大きい区域を優先し、発電出力の合計が1ギガワットになるまで割り当てる。残る区域は次点の事業者が落札する。
これまで事業者選定手続きに応募している発電事業者は特別目的会社(SPC)やコンソーシアムを組織している場合が多い。一つの企業が複数のグループに参加するケースもあり得るため、「同じ事業者」か否かの判断基準が必要になる。政府は基準案を示しており、特定の企業が2分の1以上の議決権比率を占めるグループが複数ある場合、他のメンバーが違っても同じ事業者とみなして落札数制限の適用対象にする。
国は5月に開いた有識者会議の会合に民間事業者を集め、制限に対する意見を聞いた。建設業界から参加した大林組は、制限を設ける方向性に大筋で賛意を表明。一方、三菱商事エナジーソリューションズの担当者は「落札数制限は競争をゆがめるだけで不適当だ」と撤回を強く要望するなど、賛否が鮮明に分かれた。
国が落札数制限にこだわるのは昨年事業者を公募した▽秋田県能代市、三種町および男鹿市沖▽同由利本荘市沖(北側)▽同由利本荘市沖(南側)▽千葉県銚子市沖-の4区域全てを、三菱商事らで構成するコンソーシアムが総取りした経緯があるためだ。政府が設定した上限価格(1キロワット時当たり29円)に対して多くの陣営が同20円台で提案する中、三菱商事らのコンソーシアムは同11・99~16・49円を提示。著しい低価格で、関係者に衝撃が走った。結果を受けた業界団体などからの働き掛けも影響し、制限を設ける方針を固めたと見られる。
会議の委員からは「参入事業者の多様化を図って投資環境を整備することは、産業育成の観点でも重要だ」などと制限に肯定的な意見が出ており、案から大きな変更はなく固まる見通しだ。
国は事業者提案を審査する配点も変更し、運転開始時期が早い計画をより高く評価する。現行の配点は電力供給価格を評価する「価格点」(120点満点)と、「事業実現性に関する得点」(同)の計240点満点。
案によると事業実現性の中で30点を割り振っている「事業実施実績」への配点を10点に抑え、余った20点を新たに設ける「事業計画の迅速性」に配分する。採点は評価の基準となる日を設定し、運転開始日が基準日より早いほど高得点が得られる形にする。
会議で委員らは新たな配点案を大筋で認めつつ、著しく早い運転開始日を提示して一点突破を狙う事業者が増える可能性も指摘した。運転開始時期が遅れた場合は保証金を没収するが、「ペナルティーとしてそれだけで十分なのか検討が必要だ」と問題提起もあった。
国が早期の運転開始を求める背景にはロシアによるウクライナ侵攻など、国際情勢の不安定化に伴う原油価格の高騰がある。国産再エネの早期実用化を促し、電力の安定供給につなげる考えだ。
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